犬の目はどんな見え方をしているの?犬の視覚と視野について詳しく知ろう!
犬は嗅覚や聴覚の働きが優れているとよく言われますが、視覚についてはどうなんでしょうか。犬から見た人間や世界はどんなふうに見えているのでしょうか。この記事では、犬の視覚や視野に注目し、犬の目の構造や機能、働き方について詳しく取り上げていきたいと思います。
犬の視覚と視野―どんな見え方をしているの?
Roomanald/shutterstock.com
人間と同じように、犬も聴覚・嗅覚・視覚・味覚・触覚という五つの感覚を働かせながら、外界からの情報を得ています。
しかし、その五感の働き方は人間と同じわけではありません。人間は、情報のおよそ8割から9割近くを視覚から得ているのに対して、犬の場合は、嗅覚や聴覚の感覚を鋭く働かせて情報を得ていると言われています。
では、犬の視覚に関してはどうでしょうか。犬から見た人間や世界はどんなふうに見えているのでしょうか。
ここでは、犬の視覚や視野に注目し、犬の目の構造や機能、働き方について詳しく取り上げていきたいと思います。
どれくらい範囲が見えているのか
まず、犬の視野について取り上げてみることにしましょう。視野とはそもそも何でしょうか。
視野とは、まっすぐ一点に視線を固定したままの状態で、上下や左右、前後など、どれくらいの範囲が見えるか、視覚の広がりのことを言います。
視野は、両目で見る「両眼視野」と、片目だけで見る「単眼視野」の二種類に分けられます。
両眼視野の場合は、左右の目を使って立体的に見ることができるので、距離や大きさなどを正確に判断して「見る」ことができます。
一方で、単眼視野の場合、距離や大きさなどを正確に見ることは苦手ですが、幅広い範囲を見渡せる視野を持っています。
一般的に、獲物までの距離を正確に測ることを必要とする肉食動物は「両眼視野」、周囲を見渡し、外敵にいち早く気づいて身を守る必要がある草食動物の場合、「単眼視野」という目の配置になっていることが分かります。
ちなみに人間は、正常な人の場合で、片目に付き上側に60度、下側に75度、鼻側に60度、耳側に90~100度と言われています。
人間の場合、左右の視野が重なる部分が大きく、両目で同時に見える範囲が広い「両眼視野」となっており、両眼の視野は約120度となっています。単眼で見ると視野は約40度のようです。
総合的に見ると、両目が顔の側面に付いている「単眼視野」の動物と比較すると、人間の視野はそれほど広くはなく、左右でおよそ180~200度となっています。
では、犬の場合はどうでしょうか。犬も人間と同じように、主に正面から両目がまっすぐ見える目の配置になっています。しかし、犬の方が人間よりも視野は広いと言われています。
犬の顔の作りや大きさによっても視野の範囲は異なりますが、犬の場合「両眼視野」が約30~60度、「単眼視野」が約135~150度とされています。
総合的に見ると、およそ240度ほどの視界であると言われています。ですから、犬は人間が見えない後ろの部分もかなりの程度見えている、ということになります。
犬の視力ってどれくらい?
Denise Walker/shutterstock.com
犬は視野が人間よりも広く見えていることが分かりましたが、では視力はどれくらいなのでしょうか。
実は犬の視力は弱く、人間で言うと0,2から0,3程度の視力しかないと言われています。はっきり認識できる範囲は2~3mほどのようです。
これは、先ほど取り上げた「両眼視野」と「単眼視野」の働き方の違いによります。人間の場合は、遠くにあるものでも近くにあるものでも、きちんと焦点を合わせて正確に見ることができます。これは、眼球の筋肉をうまく調節して、水晶体の厚みを調節することができるからです。
しかし、犬の場合は、この遠近の焦点を合わせる能力がほとんど働いていません。それで、静止しているものに対してぼんやりとしか見ることができないのです。
犬は優れた動体視力を持っている
私たち人間が視野や視力を図る時は、いわゆる静止した状態で測ります。つまり、一般に視力という時は、動いていないものをどれだけ見えるかを識別する能力について言っているわけです。
犬の場合、実はその「静止視力」はそれほど良くありません。人間と比べると、犬の静止視力は4~8倍程度悪いことが分かっているようです。
アメリカの大学の獣医学部によって行われた、「犬は遠視なのか?近視なのか?」という研究によれば、犬は近視にも遠視にもなり得る「正視」であることが分かりました。
「正視」というのは、目に屈折異常がない状態のことを言います。近視の場合、モノの焦点は網膜の前で合う状態になります。遠視は、モノの焦点が網膜の後ろで合う状態を言います。
240頭ほどの犬を集めて、こうした研究が行われました。犬種によっては、たとえばジャーマンシェパードやロットワイラーといった犬は近視が多く、グレーハウンドは遠視の傾向が多かったと言われていますが、平均すると「正視」の犬が多いということが分かっています。
犬は、静止視力はそれほどでもありませんが、モノが動くと、つまり動体視力に関しては優れた能力を発揮します。
視力は0,3未満と、あまり見えていない状態であるはずなのに、動いているものに対しては800m先まで認識することができる犬種もいるようです。これが静止した状態だと、400m先がやっと見える程度だというわけですから、動体視力がどれほど優れているかがお分かりいただけると思います。
動体視力がこれほど優れているのは、犬の肉食動物としての本能によるものと言うことができます。
捕食動物は獲物をすばやくとらえるために、眼球を動かす筋肉がかなり良く発達していると言われています。それで、視力以外の感覚も働かせながら、遠くのものでも正確にまた俊敏に捕らえることができるのです。
暗い場所での見え方は?
Ksenia Raykova/shutterstock.com
人間は暗い場所では、物体を見ることができません。しかし犬の場合、どんなに暗闇の中でも、物体をはっきり認識できる視覚を持っています。それは「目の作りの違い」にあります。
目はいくつもの層に分かれています。犬には、人間にはない「タペタム層」と呼ばれる層があり、これが暗闇の中でも、物体を認識できるよう働いています。
「タペタム層」と呼ばれている輝板は、反射板の役割を担っています。そのため、わずかな光でもその光を反射させて、眼球の中を明るくし、暗い中でも少ない光を増幅させて見ることができます。
このタペタムは、犬だけではなく猫にもあります。犬も猫ももともと夜行性の動物ですから、こうした暗闇でも見える眼球の作りをしていると言えるでしょう。
夜にライトの光が当たった時や、フラッシュをたいた時に、目が光って見えるのはこのタペタムがあるためです。
ちなみに、このタペタムは緑色です。反射した時は緑色に光りますが、それ以外の時は赤色に光ります。人間の目はタペタム層の作りになっていませんから、暗い中でフラッシュをたいた時は、赤く光るだけで緑色にはなりません。
このタペタム層があるおかげで、犬は暗闇の中でも、人間よりも5倍ほどはっきり見えています。しかし、このタペタム層があることが、日中光を拡散させてしまい、焦点をうまく合わせられずにぼやけて見えてしまう原因ともなっているわけです。
ちなみに、シベリアンハスキーなど眼球が青い犬種に関してはタペタム層を持っていません。
シベリアンハスキーは1年中雪が降り積もる、山岳地方で生活してきた犬種であるため、雪が光を反射させる環境にいました。そのため、タペタム層がなくても十分に光を取り入れることができたため、タペタム層を持っていないと言われています。
犬が識別できる色はどんな色?
では、犬の色の見え方についてはどうでしょうか。以前、犬は色を識別できないと言われていましたが、1989年の研究により、色を識別できることが分かりました。
しかし、人間と同じような見え方ができているわけではなく、見える色は限定されています。人間の場合、約100種類ほどの色調の違いを識別できると言われていますが、犬の場合は2つの色だけしか識別できないようです。
人間は赤・緑・青の三色の光を感受して、その光の波長の一部を7つの色で区別しています。でも犬の網膜は紫青と黄緑周辺の2つの光波長しか識別できません。
カリフォルニア大学での研究によると、私たち人間に見えている赤色は、犬には「暗いグレー」、緑、黄色、オレンジは「黄色っぽい」、そして紫と青は「青っぽい」という感じに見えているという結果が発表されています。
犬は青色から黄色の2色の間でしか、色は認識しておらず、しかもその範囲内の色の違いは分からないというわけです。
特に、緑と黄緑、オレンジ、赤色の違いは区別できないと言われています。犬と人間の色別能力には大きな違いがあることが、こうした研究結果からも分かると思います。
ですから、犬から見ると、赤い花に緑色の葉っぱの植物も、ほぼ同じ色に見えていることになります。ということは、緑色の芝生の上で、赤いボールを使って犬を遊ばせると、犬には見えづらいことになってしまいます。どちらかというと、青が濃いボールとか、黄色が濃いボールを使用してあげた方が良い、というわけです。
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